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【 Srpsko Vino / セルビアワインについて】

セルビアのテロワール(気候・風土・土壌)

ワイン産地の分類は、その地域の気候変動、土壌タイプ、植物、人間への影響など、特定の地域の相互作用する生態系(=テロワール)に基づいて行われる。世界のトップワインのほとんどは、北半球と南半球の緯度30°と50°の間の「ワインベルト」で生産されており、この地域のテロワールはブドウやワインの品質に重要な役割を果たしている。ブドウの根は地下6mもの深さに達することもあるため、根を張りやすく水はけのよい小石交じりの砂質土壌を好む。果実は気温が 27℃になると成熟するため、4月の萌芽期から6月の開花、9月の終わりから10月までの収穫期の生育期の気温が重要である。熟成中にこの最適温度に達するまでに要する時間の長短、風、気圧、毎日の気温の変化など、ブドウの成熟に影響を与えるその他の気候要因は、テロワールによって異なる。世界のワイン生産地域を比較することにより、テロワールとワインの品質の間に関係を確立することが可能である。

 

セルビアは、中央ヨーロッパと南東ヨーロッパの交差点にあり、その範囲は北部のカルパチア山脈・アルプス山脈・ディナル・アルプス山脈の尾根に囲まれた肥沃な盆地の南端から、南東の古代の山と丘に及んでいる。東または南向きの斜面が理想的な立地条件といえる。緯度は高品質のブドウの収穫がみこまれる北緯41°から47°の間である。国土の総面積88,509㎢(コソヴォ自治州を含む)は北海道ほどの大きさであり、その65%を農地が占めている(2015年)。ドナウ川が588 kmに渡り国土を横断し、西からのサヴァ川、北からのティサ川と合流ののち、南でボスニアおよびヘルツェゴビナとの境を流れるドリナ川、北西でクロアチアとの境を流れるモラヴァ川を集めて南東でルーマニアとの国境を形成している。 

 

セルビアの気候は地域ごとに地形から受ける差が大きく、北の平原は乾燥した寒い冬と、蒸し暑い夏の大陸性気候を有している。北部に広がるパンノニア平原は、カルパチア山脈・アルプス山脈・ディナル・アルプス山脈の尾根に囲まれたパンノニア盆地のうち、パンノニア海(Pannonian Sea)が干上がって残された平地である。

パンノニア海は、古代に存在した浅い海であり、現在のドナウ川がカルパチア山脈を横断する部分の峡谷「鉄門」(Gvozdena vrata)から流れ出し、最大時にはセルビア南部まで広がっていた。現在のモラヴァ川渓谷に位置した湾はグルデリカ(Grdelica)、ヴラニェ(Vranje)、プレシェヴォ渓谷(Sukobi u okolici Preševa)を経由ののちエーゲ海とつながり、フルシュカ・ゴーラ(Fruška Gora)や、ヴルシャツ(Vršac)山脈は、かつての島々の名残である。およそ60万年前に消滅するまでの900万年間に3-4000mの海洋堆積物が堆積し、地盤に厚い層が形成された。

海が干上がったのち”ヨーロッパのサハラ”であった名残は、デリブラツカ・ペシュチャラ特別自然保護区内の砂地(The Deliblato Sands Special Natural Reserve)にみられ、ユネスコ(UNESCO)の文化遺産にも登録されている。

 

北部の平野部とドナウの渓谷では、冬に北極圏と西ヨーロッパからの気団が南向きに張り出して寒気がもたらされる。夏にはサハラからの熱気が地中海を通して侵入し、北西と西からの風が強く吹く。秋から冬にかけては、カラパチア山脈から吹き降ろす南東からの冷たい風(コシャバ・Košava)が強く、朝方の気温が低下する。平均気温は平地(標高が300 mまで)で11.6℃、高地(標高が300〜500 m)はおよそ11.0℃(1981〜2017年)。南西部を除き夏の初めの5月〜6月が最も雨が多く、 2月と10月は降水量が最も少ない。寒い冬と晴れた日の多い暖かい夏は、ブドウに適し、ローマ時代からブドウが栽培されていた。

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4つの山系からなる南部の山間部は山岳性の気候である。カルパチア山脈は石灰岩質の山脈であり、北東から大モラヴァ川に沿って伸び、スタラ・プラニナ(Stara planina あるいはバルカン Balkan)山脈は南モラヴァ川に沿って南北方向に伸びている。これらの山地とアドリア海とパンノニア平原は気候に影響を与えており、南西部の山岳地帯では南西風が強い。

 

中央から南部にかけての地形は主に丘と低から中高山で構成されており、山岳地帯の合い間を縫うように流れる大モラヴァ川(Velika Morava)、西モラヴァ川(Zapadna Morava)、南モラヴァ川(Južna Morava)の3河川からなるモラヴァ水系(トリモラヴェ)が、支流の小さな川とともにネットワークを形成している。

 

南西部はアドリア海から流れ込む空気の影響をうけた地中海性気候であり、夏は暑く、冬は穏やかである。ディナル・アルプス(Dinarske planine / Dinaridies)は北西から南東に伸びる最大の山地であり、ズラティボル(Zlatibor)とコパオニク(Kopaonik)はこの地域の最高峰である。西モラヴァ流域のコパオニクは年間降水量が最も少なく晴れの日が年間200日を占めている。