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【 Srpsko Vino / セルビアワインについて】

Srpsko Vino / セルビアワインの歴史

セルビア地方におけるワイン製造の技術は、紀元200年頃にローマ軍によってヴォイヴォディナ地域にもたらされた。ドナウ川流域はローマ帝国の歴史上、守りの要衝地として駐屯地が置かれ、兵士や入植者へのワインの安定供給のためにブドウ栽培を行ってきた。

ローマ人が到着する以前にも、この地域のイリュリヤ人、トラキア人、ケルト人は、ブドウ栽培を行っており、現在のヴォイヴォディナ州にあるシルミウム遺跡で、鉄器時代と青銅器時代(紀元前400〜200年)に属する野生ブドウの化石が発見されている、ベオグラード地方のヴィンツァ遺跡(Vinča)でも野生のブドウやアンフォラが発見されているが、アンフォラにブドウまたは発酵小麦から作られた今日のワインやビールと同様の飲み物を含んでいたことは確認されていない。

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4世紀のキリスト教公認以前からワインは食事時に飲まれていた。聖書とキリスト教もまた、アルコールは人生をより楽しくする神からの贈り物であると教え、聖体はパンとワインで構成されていた。紀元92年のローマ皇帝ドミティアヌス(西暦56〜96年)の勅令により、ローマと競合するブドウ畑の引き抜きが命じられると、バルカン半島の州でのブドウ栽培も禁じられた。

セルビア地方でのブドウ栽培の実際のはじまりは、ローマ帝国の2番目の皇帝マルクス・アウレリウス・プロブス(Marcus Aurelius Probus 276-282)によりシルミウム(現在のスレムスカ・ミトロヴィツァSremska Mitrovica)周辺に最初のブドウが植えられたと伝えられている。ローマ軍がバルカン半島に到着し、禁止令が解除されると兵士がブドウの木を植え始めた。ローマ帝国がブドウ栽培を促進すると土地の人々もそれにならい、地域の人口が増加した。
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ローマ帝国の衰退後、西ヨーロッパと中央ヨーロッパのワインの生産と消費は大幅に減少したが、東西教会(特にビザンチン教会)はブドウ栽培とワイン造りの慣行を守っていた。中世のセルビアでは王家と正教会がワインづくりを奨励した。夏は暖かく、冬は非常に寒い大陸性の気候と砂質の肥沃な土壌を生かし、ワインは人々の間で真の国民的飲料となった。1168年にネマニッチ王朝が成立すると、ワインづくりが奨励された。セルビア初の明文化された法律である「ドゥシャン法典(Dušanov zakonik)」にもワインの製造や販売に関する法律が詳細に記されている。

15世紀末から500年にわたるオスマン帝国の支配下では、イスラム教の戒律によりアルコール飲料が禁じられた。この時期に主に中東から生食に適したブドウ品種と乾燥の技術がもたらされた。ワインづくりは修道院内で守られた。

【blog】セルビアワイン( Srpsko Vino)について③主な栽培ブドウ品種 2.黒ブドウ を追加しました

19世紀の終わりには、セルビアのブドウ栽培はヨーロッパと同じ運命をたどった。フィロキセラ(ブドウネアブラムシ)の繁殖により土着品種は絶滅に瀕し、多くのブドウ畑が荒廃した。1878年のベルリン会議で独立が国際的に国家の承認をうけると、カラジョルジェヴィッチ(Karađorđević)王朝とオブレノヴィッチ(Obrenovići)王朝の庇護のもと、オーストリアやハンガリーから近代的な技術をとりいれ、ワイン産業は黄金期を迎えた。主にフランスから導入された国際品種に加え、プロクパッツ(Prokupac)タミヤニカ(Tamjanika)などの土着品種も注目をされるようになった。1912年に沈没したタイタニック号のワインリストにもスレムスキ・カルロヴツィ(Sremski Karlovci)のデザートワイン(ベルメット Bermet)が採用されていたのもこの頃である。 また、この時期に遡るネゴティン渓谷地方(REJON NEGOTINSKA KRAJINA)の醸造文化は、ユネスコ文化遺産に登録されている。

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1945年以降の旧ユーゴスラヴィア時代には国営の大規模農園でブドウの大量生産が行われた。最盛期には世界の10大産地にも選ばれが、多くのワインは製造過程におけるすべての段階で質よりも量に重点が置かれていた。限られた品種のみが栽培され、多くの土着品種がこの時期に姿を消した。1980年代には生産と輸出の急激な減少が見られた。1990年代のユーゴスラビアの崩壊によりブドウ畑は破壊をうけ、その後のセルビア経済の崩壊に伴いワイン産業も低迷を続けた。

2000年代になると数多くの小規模ワイン醸造農家が市場に参入し、ブドウ栽培はセルビア農業の先進部門となっている。品質質重視の生産者が土着品種と国産品種を用いた高品質なワインを生産し、ベルメットなど、忘れられかけていた伝統も復活した。国の景気回復も国内消費の増加に貢献した。2019年の生産量約425,000tは世界15位である。輸出量は国内生産の5%にとどまり、そのほとんどが近隣諸国むけである。