food&wine/料理とお酒
Srpska Rakija / セルビアのラキヤ(フルーツブランデー)について
【ラキヤについて】
ラキヤはバルカン地方で主に果実などからつくられる蒸留酒である。蒸留技術は、中世にアラブ社会からオスマン帝国を経由してバルカンに伝えられ、セルビア地域の標高の高い山間部では、ワインに適した糖度の高いブドウが生育しないため、13世紀よりプラム、杏などの果実を利用したラキヤがつくられようになった。名称はトルコの蒸留酒ラクに由来するが、ラクとは異なる飲料に発展している。
ラキヤは伝統料理の食前酒や、宗教儀式や冠婚葬祭の場において、チョカニ(Čokanj/cokanj)またはチョカニチッチ(čokanjčić/cokanjcic))と呼ばれるショットグラスでふるまわれる。代表的なラキヤは、シュリヴォヴィッツァ(šljivovica)と呼ばれるプラムブランデーである。シュリヴォヴィッツァは、セルビアで初めての原産地呼称認定ブランドであり、ズラティボール山近郊のシュリヴォヴィッツァ村の伝統レシピが元となっている。
セルビアでは年間450,000tのプラムが生産され、そのおよそ70%がシュリヴォヴィッツァの製造に使用される。オーガニックな製法でつくられたプラムのみがラキヤの製造に使用され、プラムの種類により味わいは異なる。ボジェガ種(Požega)とツルヴェナ・ランカ種(Crvena ranka)からつくられるラキヤが最上とされている。中部セルビアの中心、シュマディヤ地方はボジェガ(Požega)の名産地であり、マケドニアのアレクサンダー大王によって、紀元前4世紀にシリアからバルカンにもたらされたといわれている。また、「チャチャクの美人」という意味のチャチャクンスカ・レポティカ(Čačanska lepotica)、スタンレー(Stenley),チャチャンスカ・ラーナ(Čačanska rana)、種からつくられるラキヤも有名である。標高1,000mに位置するズラティボール地方のウジツェもラキヤづくりで有名で、毎年4月には地元の自家製ラキヤ品評会が開かれている。また、コソヴォでは修道院でブドウからつくられるロゾヴァチャ(Lozovača)が有名である。
通常、ハーブやその他の添加物が加えられていないラキヤは無色である。種類によってはオークやクワで作られた樽の中で保管され、芳香と黄金色を帯びる。セルビアやブルガリアなどでは、複数の果物を混ぜ合わせたラキヤもある。民間療法でラキヤは、病気や苦痛を和らげる薬としても知られ、セルビアでは「ワインは熱を上げ、ラキヤは熱を下げる」といい、風邪薬ともされている。シュマディヤ茶とよばれるシュリヴォヴィッツァに砂糖を入れて沸かした飲み物も民間療法に用いられる。シュマディヤ茶は通常、一度めの蒸留の過程で得られたアルコール度数の柔らかいラキヤが使われている。
【製法】
ラキヤの生産は、ラキヤおよびその他のアルコール飲料に関する法律によって規制されており、15%から55%のアルコール度数が必須である。合成アルコールと砂糖の添加は禁止されており、規定の添加剤、甘味料、香料の添加は許可されている。個人消費用の場合はこの法律の対象ではないが、一般への販売は、生産者登録と法規制を満たしている場合にのみ限られる。
現在、セルビアでは、2,000か所の醸造所が正式登録されており、うち、約100か所が高品質のラキヤを生産している。農村世帯の生産者による販売はごく一部に限られ、多くの場合はオーク樽で熟成し、スラヴァや誕生日などの特別な機会にふるまわれる。長期の熟成に適しているため、数十年前のボトルが重要なイベントのために保存されていることもまれではない。(トップの写真は自家製ラキヤの保存容器)。
ラキヤの基本的な製法は、収穫した果実を選果ののち、洗浄→切るか砕いて液体にする→発酵→蒸留→熟成の過程でなされる。蒸留は複数回行われ、はじめにジュースまたは「コミナ(komina)」と呼ばれる果汁の残渣に水分を加えて発酵させた液体を、最低25%アルコールで度数まで蒸留する。次に最初の蒸留で得られた25%程度の柔らかなブランデーを、通常40%程度まで再蒸留する。この伝統的な製法でつくられたラキヤは、プレペチェニツァ(prepečenica)という名前でも流通している。自家製のものでは、さらに蒸留を重ねた度数の高いものもあり、典型的には50%から60%、強いものは70%程度まである。
【主なラキヤの果実と名称】
プラム(šljiva)→シュリヴォヴィッツァ(šljivovica)
特にポジェガ種のプラムからつくられるラキヤ→ポジェガチャ(požegača)
洋ナシ(kruška)→クルシュコヴァチャ(kruškovača)
特にウィリアムズ種の洋ナシからつくられるラキヤ→ヴィリャモヴカ(vilijamovka)
ワイン用ブドウ(loza)→ロゾヴァチャ(lozovača)
特にブドウの搾りかす(kom)からつくられるラキヤ→コモヴィチャ(komovica)
アンズ(kajsija)→カイシイェヴァチャ(kajsijevača)
リンゴ(jabuka)→ヤブコヴァチャ(jabukovača)
桑の実(dud)→ドゥドヴァチャ(dudovača)
サワーチェリー(višnja)→ヴィシェニェヴァチャ(višnjevac)
サクランボ(trešnja)→トレシュニャヴァチャ(trešnjevača)
モモ(breskva)→ブレスコヴァチャ(breskovača)
イチジク(smokva)→スモクヴォヴァチャ(smokvovača)
マルメロ(dunja)→ドゥニェヴァチャ(dunjevača)
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蜂蜜入り(sa medom)→メドヴァチャ(medovača)
※ラキヤに蜂蜜を足してつくられるため、アルコール度数が低めである。
ハーブ入り(sa travom/biljkama)→トラヴァリッツァ(travarica)
ジュニパー入り(sa klekom)→クレコヴァチャ(klekovača)
胡桃入り(sa orasima)→オラホヴァチャ(orahovača)
アニス入り(sa anakom)→アナコイチャ(аnakoiča)
バラ入り(ルジツァružica)